ハヤカワらしい綺麗なファンタジー 菅浩江「永遠の森 博物館惑星」

スポンサーリンク
<ガイア>、覚えてね。こういうのが『綺麗』なの。
この幸せな気分も一緒に覚えてね。

「ハヤカワ」で思いつくのはSFかしら、ミステリかしら。

「永遠の森 博物館惑星」の舞台は月と地球の重力折衷間に作られた人工星「アフロディーテ」。
そこは動植物から舞台芸術まで、ありとあらゆる美術品が集められる巨大博物館。

音楽・舞台・文芸担当の「ミューズ」、絵画・工芸担当の「アテナ」、動・植物担当の「デメテル」。それらに対して「直接接続者」と言われる学芸員が無敵のデータベース「ムネーモシュネー」を駆使して美術品鑑定を行っている。


集められる美術品を日々、分析鑑定することにより「綺麗」という「感動」を忘れてしまった主人公が、最後に「芸術とはこういうものだった」と感動を思い出すシーンにはこちらがハッとしてしまうほど。(あ、でも芸術作品対してのウンチクはないので、芸術に親しみのない人でも大丈夫)

それぞれの短編が最後にまとまって大きな1つの作品になるタイプで、どの短編もガラスのように透明感があり、とても綺麗な作品。

ほとんど目に見える風景設定がないにも関わらず、それでも「こんな場所があったらな」と思ってしまう、そして物語だとわかっていても「その世界は私が生きている間には作られないだろうな」とガッカリしてしまう、妙にリアルな世界観。

なんてロマンチックで、ファンタジック。 これぞハヤカワ。


さほど多くない設定から、自分で想像で世界を膨らましていくのが好きな人には最適な作品。

菅浩江はこの作品で初めて知ったのだけど、どうやら本作のようなファンタジックミステリー、というものがお得意の様子。他の作品も読んでみたくなったわ。


本・書籍ランキング