その世界の中で楽しめればいいのさ。ただし、あくまで知的に、ね 綾辻行人「十角館の殺人」

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(審判、か。)

低迷していた本格ミステリというジャンルを盛り上げるきっかけとなるのがこの作品「十角館の殺人」です。「綾辻以前」「綾辻以後」という言葉を生み出したわ。

時期を前後して島田・有栖川等の新本格作家もデビュー。このペンネームの「綾辻行人」は島田荘司によるもの。ミステリ好きならこの豪華なラインナップに目眩がするほど!

社会派のミステリが幅を利かし、本格ミステリは端に追いやられていた時代。その時に現れたのが島田荘司であり、綾辻行人であり、有栖川有栖だったのよ。

荒唐無稽なトリックではない、「謎」を必要とするミステリを作り上げた「新本格ミステリ一派」は法月綸太郎、森博嗣、京極夏彦と続いていく。大どんでん返しが控えているこの心地よさがクセになるのが綾辻だわ。


この作品は本格ミステリ好きにはたまらない設定。
閉ざされた空間、殺されていく仲間、そして生まれる疑心暗鬼。

ある島に泊りがけで遊びに行く事になったミステリ研のメンバー達。そこは今は無人島になっているけれど、奇才・中村青司が立てた「十角館」がある。その島へはモーターボートでしか行き来は出来ず、帰りの船も1週間後にしか来ない。そんな島で殺人事件が起きていく・・・。

僕にとって推理小説とは、あくまでも知的な遊びの一つなんだ。

最初見たときは「ルルウ?ポー?アガサ?大学生なのにそんな呼び合いしてるの!?」と引き気味だった私。しかも登場人物の名前も「守須」「江南」「島田」。なんかギョーカイの内輪受けみたいな雰囲気で正直ちょっとなぁ、とテンションは低めだったわ。

そんな私、

やられた・・・。

江南=コナン・ドイルという紹介があった時に仕掛けられていた罠に見事に引っかかりました。先入観って怖いわー!「ハサミ男」と同じひっかけに見事ひっかかりました。

この作品は1980年代のものなので、時代の変化に伴う古さは感じるけれど、ミステリとしては問題なし。 ただ、ミステリの出来とは違う所で、やや物足りなさを感じるところもあるのよね。

綾辻って、淡々としているというか、トリック以外の箇所(例えば登場人物の心情とか)にカタルシスを求めていない気がする。 登場人物に入れ込む派の私としてはそこがちょっと物足りないというか。

今でこそトリックミステリーは金田一やコナンの大ヒットした漫画で一般的になったけど、そのミステリー復興の足がかりとなった本作品、トリックミステリーの漫画好きの少年少女にも読んで欲しいわ。


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