理屈ではない、でも浪花節だけもない。信じて賭けるものがある。 福井晴敏「亡国のイージス」

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「よく見ろ、日本人。これが戦争だ」

高校時代に「沈黙の艦隊」が流行りまして。おじさんスキーな私はすっかりハマったのでした。
妙にリアルな設定が当時の時代背景と相まって、毎週ドキドキして続きを読んでいたわ。
流石に女子高生で沈黙の艦隊好きというのは周りには少なかったけど、ラジオドラマ化したりして二次元の世界でもたくさん薄い本があったのや、やたらと海上自衛隊にスポットがあたったのもよーく覚えてるわ。

もう、懐かしすぎて、胸がざわつく!

(ちなみに私は海江田派)

そんな私だから、「亡国のイージス」に出てくる専門用語は難なくクリア。それでも上巻の途中までは物語の進みの遅さというか緻密さに心が折れそうになったことも。
思わせぶりな記述や布石(ひっかけ)がバンバン続くので、読書慣れしてない人はこの辺りで落ちる可能性も大きいんじゃないかしら。

でも、上巻も後半に入るとページを捲る手が止まらない止まらない。

「あ、やっぱりそうなる?」から「あ、そう来たか!」とひっくり返される事が続くのがとても気持ちいい。
もちろん「そんな偶然が何回も起っていいわけ!?」というご都合主義もあると思うんだけど。でもでも、それらを拭っても面白い!この作者は本当に、リアルさと荒唐無稽さの絶妙なバランス取りがうまいわぁ。

日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞受賞のこの作品は「祖国とは何だ。そこに生きる人々は何だ。そしてお前は何をするのだ。」とストレートに訴えかけてくる。

しかし暑っ苦しいだけじゃなく、時に淡々と書かれる文章に余計には凄みが感じられる。だからこそ、作品半ばで登場人物が言うセリフ、「よく見ろ、日本人。これが戦争だ」が迫力を持つ。
戦争を放棄した日本は軍隊の保持を否定。しかし国を守る為の「自衛隊」の保持する。しかしその力は戦力となるのではないか-。

自衛隊が抱える矛盾、そしてその矛盾に対して従わざる得ない人・矛盾を正す為に立ち上がる人・しかし行動を起こせない日本国。

自衛隊を、守る対象を失った「亡国の盾(イージス)」と言いきった、重いテーマの本作品、それなのに読後感がいい。よくよく考えれば国の問題なんて何も解決されてない。個人の幸せで全てが払拭されているが、それでもどうして後味がいいのだ。

確かに、ミリタリー用語に多少のハードルはある。ただ、そのハードルは決して高いハードルではないので、多少の想像力とイマジネーションで飛び越えられるはず。上下巻、軍事モノという壁を感じている人にも、ぜひ手にとって頂きたい作品よ!


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